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後ろを向く8点、前を向く0点

後ろを向く8点、前を向く0点

— 訪問看護のケアの現場から —

 

人は、楽しかったことよりも、嫌だったことの方をよく覚えているものです。

 

ある日、訪問先でそんな話をしていました。

「恥ずかしかったことって、何度も思い出してしまいますよね」とお伝えすると、利用者さんは少し笑いながら、こう返されました。

 

「“恥(はじ)”はかいたことないな。“8(はち)”は取ったことない。0ばっかりだったよ」

 

“はじ”と“はち”。

 

言葉遊びのような一言に、思わずこちらも笑ってしまいました。

 

けれどその言葉には、その方のこれまでの人生がにじんでいるようにも感じました。

 

完璧ではない自分。

思い通りにいかなかった過去。

それでも、こうして今を生きておられること。

 

私はその言葉を受けて、こうお伝えしました。

 

「8点だと、“あと2点…”って後ろを振り返ってしまいます。でも0点だと、前を向くしかないですね」

 

すると利用者さんは、少し照れたように笑っておられました。

 

0という数字は、一見すると「何もない」「できていない」と捉えられがちです。

 

けれど見方を変えれば、それは“これから始まる”という意味でもあります。

 

後悔や恥の記憶に引き戻されそうになるとき、私たちはつい過去に目を向けてしまいます。

 

ですが、その方の一言は教えてくれました。

 

「前を向くしかない時もある」ということを。

 

訪問看護の現場では、技術や知識だけでなく、こうした何気ない言葉のやり取りの中に、大切な気づきがたくさんあります。

 

利用者さんから教わること。

言葉の力に気づかされること。

 

そして、その人のこれまでと、これからにどう向き合うかを考えること。

 

私たちは、支援する側でありながら、同時に学ばせていただく存在でもあります。

 

あの日の会話は、とても短いものでした。

 

けれど、「ゼロから始まる」という前向きな視点を、改めて教えていただいた、大切な時間でした。

 

明るく前を向いてこられたご主人と、少し心配性で後ろを振り返りがちな奥様。

 

もしかするとこの言葉は、大切な人を支え続けてきた時間の中で生まれたものなのかもしれません。

 

これからも、一つひとつの出逢いを大切にしながら、その人らしい歩みを一緒に支えていきたいと思います。

 

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訪問看護では、医療やケアだけでなく、利用者さんとの何気ない会話の中から学ばせていただくことがあります。

 

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