「ごめんね」が「ありがとう」に変わった日

病状の進行により、寝たきりとなり、四肢麻痺のある利用者さんでした。

 

自力での排便が難しくなり、

 

・浣腸

・摘便

・洗浄

・オムツ交換

 

といった排泄ケアが必要な状況でした。

 

その方は、とても気を遣われる方で、ケアのたびに必ず、

 

「ごめんね」

 

と言われていました。

 

今回のお話は、排泄ケアを通して感じた、“申し訳なさ”と“ありがとう”についてのお話です。

 


「汚いことをさせてごめんね」

ケアのたびに、その方はこう話されていました。

 

「汚いことをさせてごめんね」

「いつも本当に申し訳ないね」

 

自分の排泄を、他人の力を借りなければならないこと。

 

それが、その方にとっては、とても大きな負い目になっているようでした。

 

私たちも、

 

「それが私たちの仕事ですから」

「気にしないでくださいね」

 

と、お伝えしていました。

 

ですが返ってくるのは、いつも同じ言葉でした。

 

「ごめんね、いつも汚いことさせて」

 

役割として説明するだけでは、その方の“申し訳なさ”は、軽くならなかったのだと思います。

 

「便を取りに来ているわけじゃないんです」

ある日のケアの中で、私はふと、こんな言葉をお伝えしました。

 

「私たちは、便を取りに来ているわけじゃないんですよ」

 

「〇〇さんの“気持ち悪さ”や“不快感”を取りに来ているんです」

 

すると利用者さんは、少し驚いたような表情をされました。

 

しばらく黙っておられたあと、

 

静かに、

 

「そうか…」

 

と話されていました。

 

「ごめんね」から「ありがとう」へ

その日を境に、利用者さんの言葉が少しずつ変わっていきました。

 

「ごめんね」

 

ではなく、

 

「ありがとう」

 

と言われるようになったのです。

 

状況が変わったわけではありません。

 

浣腸も、摘便も、オムツ交換も、これまで通り必要でした。

 

変わったのは、

 

「迷惑をかけている」

 

という感覚から、

 

「自分のつらさを受け取ってもらえている」

 

という感覚だったのかもしれません。

 

排泄ケアは、尊厳と切り離せない

排泄は、生活の中でも、とても個人的なことです。

 

だからこそ、

 

・恥ずかしさ

・遠慮

・申し訳なさ

 

を抱えながらケアを受けている方も少なくありません。

 

私たちは、

 

医療処置や身体介助を行う仕事です。

 

ですが同時に、

 

「申し訳ない」

「迷惑をかけている」

 

という心の負担へ寄り添う仕事でもあるのだと思います。

 

訪問看護は、生活の中へ入る看護

訪問看護は、生活の中へ入る看護です。

 

排泄も、清潔も、その人の尊厳と切り離すことはできません。

 

「汚いことをさせている」

 

ではなく、

 

「不快を取り除くために関わっている」

 

そう伝わった時、人は少し安心して、

 

「ありがとう」

 

と言えるのかもしれません。

 

看護師として、その変化に立ち会えたことを、今でもはっきり覚えています。

 

それは、

 

技術がうまくいった喜びとは少し違う、

 

胸の奥に静かに残る嬉しさでした。

 

関連ページ

服薬カレンダーをやめた理由

「週4回は飲めているのですね」

ご家族が介護疲れを感じた時

看取りが近づいた時の不安 

在宅療養のお困りごと

 

 

在宅療養では、身体のケアだけではなく、「申し訳なさ」や「遠慮」といった気持ちへ寄り添うことも大切なのだと思います。

今回の関わりは、“排泄ケア”についてだけではなく、“人の尊厳”について、改めて考えさせていただいた出来事でした。